対立遺伝子とは

人間が持つ46本の染色体は、父親と母親からそれぞれ1本ずつ受けつがれた、2本ずつの対として表されます。この対を「相同染色体」と呼び、人間では23対存在します。相同染色体同士は配列が似ており、基本的には染色体上の同じ位置には同じ機能に関わる遺伝子があります(XY染色体の対を除く)。この位置を「座位(遺伝子座、locus)」と呼び、同じ位置にある遺伝子それぞれを「対立遺伝子」または「アレル」(allele、アリル)」と呼びます。アレルという言葉は、ギリシャ語で「対応する形」や「別の形」を意味するアレロモルフという言葉が短縮したものに由来します。

対立遺伝子は、父親由来の片方の遺伝子と母親由来のもう片方の遺伝子で異なる特徴を持つことがあります。対立遺伝子が2種類以上あるとき、対立遺伝子の組み合わせを「遺伝型(遺伝子型、genotype、ジェノタイプ)」と呼び、両親由来の対立遺伝子が同じになることを「ホモ接合」、異なる組み合わせになることを「ヘテロ接合」と呼びます。

例として、お酒の分解にかかわる遺伝子ALDH2の遺伝が挙げられます。ALDH2は、お酒のアルコールが分解されて生じるアセトアルデヒドなどを分解する「アルデヒド脱水素酵素」を作り出す働きをもつ遺伝子ですが、通常の1型遺伝子の他に、分解力の弱い2型遺伝子の2種類の対立遺伝子が知られています。したがって、ALDH2の遺伝には、両親から1型の遺伝子を受け継いだ場合(1/1タイプ)、一方の親から1型、もう一方の親から2型を受け継いだ場合(1/2タイプ)、両親から2型の遺伝子を受け継いだ場合(2/2タイプ)、の3つのパターンの遺伝型が考えられます。この場合、1/1と2/2をホモ接合、1/2をヘテロ結合と呼びます。

遺伝子のDNA配列が解読できるようになると、例に挙げたALDH2の2種類の対立遺伝子は、SNP(一塩基多型)と呼ばれるDNA配列の1箇所の違いから生まれることが明らかになりました。1型遺伝子のDNA配列のうち1箇所の「G(グアニン)」が、2型遺伝子では「A(アデニン)」になっていることが、作られる酵素の働きを弱める原因となっています。このことから、上記の1/1、1/2、2/2の3タイプの遺伝型を、DNA配列の違いを表す文字をとってGG、GA、AAと表すことがあります。また、SNPを指してアレルと呼ぶこともあります。

対立遺伝子の違いは、ALDH2のようにSNPに起因する場合だけでなく、その他の遺伝子多型や複合的な要因による場合もあります。遺伝子によっては、ABO血液型のように3種類やそれ以上の対立遺伝子がある場合も知られており、複対立遺伝子と呼ばれます。

染色体上の位置が近い遺伝子同士では、同じ対立遺伝子の組み合わせで遺伝しやすいという現象があり、「連鎖(遺伝的連鎖、genetic linkage)」と呼ばれます。例えば、遺伝子Aに2種類の対立遺伝子 A1とA2があり、近くに位置する遺伝子Bに2種類の対立遺伝子 B1とB2があるとき、A1のある染色体ではB1が、A2のある染色体ではB2がよく見られるような場合に、AとBが連鎖していると考えられます。連鎖がどの対立遺伝子でどのくらいの頻度で見られるかというデータを用いることで、1つの対立遺伝子を調べることで他の対立遺伝子を推定することができるようになります。

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