食欲と肥満の関係

食欲とは脳からの食事に対する欲求で、生理学的には摂食行動とも呼ばれます。食欲を感じているのは胃ではなく、脳の摂食中枢が胃や血液、ホルモンの状態を感知しています。食欲が抑えられないと過食につながる可能性があるため、肥満を予防・改善したい方にとっては重要なテーマといえます。

食欲調整のメカニズム

食欲調節には様々な因子が複雑に関与しています。1994年、脂肪細胞から分泌される「レプチン」というホルモンによる食欲抑制作用が報告され、その後、レプチンを中心とした食欲や代謝、さらには体重調節のメカニズムが明らかとなりつつあります。

食欲と過食

過食とは、消費エネルギーに対して摂取エネルギーが過剰になった状態のことをいいます。いわゆる「食べ過ぎ」の状態で、食欲や習慣の影響を受けます。ストレスなどが原因で食欲の調整機能が乱れると、過食につながると考えられています。また、就寝する2~3時間前に夕食をとる習慣を続けると、過食につながるリスクが高まるとされますが、その一因として、レプチン作用の不足が報告されています。

食欲と肥満の関係

肥満が進むとレプチンの分泌量は相対的に少なくなります。加えて、レプチンの働きそのものが弱くなっていきます。このような状態を「レプチン抵抗性」といいます。このような背景から、肥満の方では食欲が増進しやすくなり、さらなる体重増加につながる可能性があります。

また、レプチンは交感神経を活性化させることで脂肪を燃焼させ、エネルギー消費を促す役割も担います。肥満の方ではレプチン抵抗性があることで、やせにくい状態になるという側面もあるため、減量によって悪循環を断ち切る必要があります。

腹八分目に医者いらず

貝原益軒という江戸時代の学者が自身の著書『養生訓』の中で掲げた言葉です。長寿のための食事としてバランスのとれたものを腹八分目で抑えて食べることが勧められています。また、食欲や人間をとりまくさまざまな欲望を抑えながら自己管理を徹底することが長寿の秘訣だと説かれています。肉類は少なく、野菜を多く食べることも挙げられているなど、現代日本における健康法と基本的な考え方には変わりがないように思えます。このような考えを説いた益軒は江戸時代ながら84歳まで生きたそうです。

肥満でない人は腹八分目を目安にすることが望ましいとされていますが、肥満の場合は腹七分目で切り上げる必要があるという考えを支持する人も多くいます。いずれの場合も満腹になるまで食べるのではなく、控えめに食べることが必要という考え方が支持されています。

肥満を予防・改善する食習慣

肥満の方は、異常な量を食べてしまうというより「ときどき間食する」や「少し食べ過ぎた」といった例も多く、こうした習慣の積み重ねが肥満につながっています。肥満を予防・改善するためには、自分の体重と身体活動のレベルから必要なエネルギー量を算出し、カロリーオーバーにならないように調整していくことが最初のステップです。食欲におもむくまま好きなだけ食べるのではなく、必要カロリー数に基づき、客観的に食事量を抑えていくことが大切です。

「飽食の時代」といわれる現代において制限なく食事をとり続けると、簡単にカロリーオーバーになってしまいます。食欲のおもむくままに食べるのではなく、食べ過ぎを意識するようにしましょう。

監修

砂山 聡先生

砂山 聡先生

帝京大学福岡医療技術学部 医療技術学科長/教授(内科学)
水道橋メディカルクリニック院長
順天堂大学医学部卒。同大学医学部循環器内科講師を経て、2005年より現職。専門は生活習慣病および肥満症治療。
医学博士、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本心臓リハビリテーション学会評議員、日本肥満症治療学会評議員。
主な著書として「循環器と病気のしくみ」(日本実業出版社)、「肥満症診療ハンドブック」(医学出版社)など。

参考文献・資料

  • 日本肥満学会(編集). 肥満症診療ガイドライン2016(ライフサイエンス出版)
  • 太田一樹, 空腹・満腹のメカニズム-中枢性摂食調節機構について-, 鎌倉女子大学学術研究所報12 (2012)
  • 澤田節子, 貝原益軒の『養生訓』にみる健康術-セルフケアをめぐって-, 東邦学誌40巻1号 (2011)

肥満・ダイエットの基礎知識

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